雪崩の基礎

雪崩事故の統計は、人が巻き込まれる雪崩のほとんどは、その人の選択の結末であって、偶然の結果ではないことを示しています。これは自然コンディションを理解し、それに合わせた行動がいかに大事であるかを示唆しています。ここでは、雪崩についての基礎的な事柄を簡略的に整理しました。
 

降雪と積雪

降ってくる雪を「降雪」、積もった雪を「積雪」と呼びます。さらさらの結束性のない雪も、積もって時間が経つことで、雪粒同士は次第に結合し、強い結合力を持つようになります。写真のような屋根から垂れ下がった雪をご覧になった経験があると思いますが、この雪は一立方メートル換算で300kg程度はあります。これだけ重いものが垂れ下がっても切れないほど、雪の結合力は強いのです。ですから、山岳の積雪は、一般に思われているよりも、ずっと大きな強度を持っています。

 では、なぜ雪崩れるのでしょうか? それは雪の結合が壊れるからです。これを逆からみて、どのような時に、雪の結合が壊れるのだろう? と考えることで、雪崩が発生しやすい状態が理解できるようになります。

結束性のない雪

寒気が入り、さらさらの結束性のない雪が大量に降りますと、その雪粒同士が、まだよく結合していませんから、一箇所で少しの雪が崩れると、周囲の雪を巻き込みながら流下し、次第に大きくなり、雪崩となります。このような雪崩は、横方向に大きく広がることはなく、縦長に流れる雪崩となります。また、この雪崩はあまり大きな雪崩にはなりませんが、雪の量が十分にあれば人を押し流しますし、危険な地形要素が加われば、当然、人を死に至らせる可能性もあります。

 このような雪崩を、点発生雪崩(Loose snow avalanche)と呼びます。雪に結束性がないのですから、斜度が十分にあれば、林の中でも起こります。雪粒同士の結合力があれば、樹木が積雪を支える役目を果たします。また、春の高温や日射そして降雨などにより、雪が完全に濡れた状態になると、やはり雪粒同士の結合力がなくなりますので、点発生雪崩は起こります。写真は降雨の際に林間で発生した点発生雪崩です。

層構造を持つ積雪

積雪は、層構造を持ちます。密度が低く柔らかい層もありますし、日射の影響で雪が溶けて再凍結した硬い層もあります。各層は、厚さや密度、そして雪温などに多様性があり、それがサンドイッチのように積み重なっています。よって、隣接する層同士の結合の程度も多様になります。簡単にいえば、降雪時の気象条件が積雪に記録されているのです。

 また、積雪は空気を多量に含むため、断熱効果があります。ですから気象条件によっては、層間に温度差が生まれ、時間経過と共に境界面にある雪を、弱い種類へと変えていくことがあります。時間が経ってから、不安定性要因が積雪内に生まれるのです。温度差が小さければ、雪粒同士はよく結合し、ゆっくりと強度を持ったものへと変化していきます。

 図は、尾根を挟んで南斜面と北斜面の積雪構造をSPINによってグラフ化したものです。水色のグラフは、左にいくほど層が硬いことを示しており、K=ナイフが入る、P=鉛筆が入る、1F=指が一本入る、4F=4本指が入る、F=握り拳が入る、となっています。斜面の向きが異なることで、このような層構造の大きな違いがあるのです。南斜面(左)では、中間層に非常に硬い(硬度K)の層があり、その上にしっかりした層が載っていることがわかります。一方、北斜面(右)では、表面に近いところにはしっかりした層がありますが、内部はまだ柔らかい雪で構成されていることが理解できます。点線は温度を示しており、表層は気象変動の影響を受けるものの、積雪深部に向かって、徐々に温度が高くなっていることがわかります。

スラブ

結束性のない雪も、時間が経つに従い、雪粒同士の結合が進み、板状の性格を持った雪の層を形成します。これを<スラブ>といいます。スラブは、吹雪であれば、降雪の最中から形成されますし、たとえ降雪がなくとも、風が雪面の雪を動かすほど強ければ、その移動した雪によってスラブが形成されることもあります。また、風が弱くとも、気温が高い時に降る雪であれば、積もるそばから、その結合は速やかに進み、スラブが形成されていきます。

 このスラブが動く雪崩を、面発生雪崩(Slab avalanche)といいます。滑走者が起こす雪崩事故は、この面発生雪崩がほとんどを占めます。写真のように、遭遇者の周囲の雪が同時に動き始めるため、なかなか逃げることができません。ブロック状に見えるものが、動き出したスラブです。統計は、流下する平均的なスラブは、一立方メートル換算で200~250kgであることを示しています。よって、流下する雪崩はとても大きなエネルギーを持っています。

降雪時の雪崩

多くの雪崩は、降雪中やその直後に発生しています。たとえば、吹雪は強く降ったり、弱く降ったりと、息をしていますので、ある時間内に降った40cmの積雪内に、結合が悪い箇所が生じることがあります。この結合の悪い箇所が、その強度を上げる速度よりも早く、その上に大量の雪が載れば、その弱い箇所は、上に載る雪の重さに耐えることができなくなり、雪崩が発生します。スキーパトロールが安全対策ためにコントロールしている雪崩は、こうした種類のものが多くを占めます。ですから、強い冬型となり短時間に大量の雪が降っている時に雪崩が発生しても、それはごく自然な現象といえます。そして、このような不安定性は比較的日数を掛けずに安定化の方向に進むのが通例です。もちろん、新雪と旧雪(降雪が始まる前の積雪)との境界から雪崩が発生することも、旧雪内に存在した弱層が上に載る重さに耐えられなくなり、雪崩れる場合もあります。

誘発のメカニズム

滑走者が面発生雪崩を誘発する際は、次のようなメカニズムであると考えられています。

スラブが存在 → 弱層もしくはウイーク・インターフェイスがある → 人の刺激が弱層もしくはウイーク・インターフェイスまで届き、局所を破壊 → その破壊が弱層もしくはウイーク・インターフェイスに沿って伝播 → ストレスが掛かっている箇所のスラブが破断し、動き出す

大事な点は、人が誘発する雪崩では、その始動において、人の刺激がスラブを通して弱層もしくはウイーク・インターフェイスの局所を破壊することです。よって、弱層だけではなく、どのようなスラブが形成されているのかが、とても重要な意味を持ちます。硬いスラブ(ハードスラブ)や弱層が十分に深い位置にある場合、人は弱層の破壊を起こすことが難しくなります。一般的に、適度な軟らかさを持つスラブのほうが、誘発しやすいことが知られています。これは、フカフカのソファに座ると身体が深く沈みますが、少し硬いマットレスをソファの上に載せると、身体が沈まなくなるのと同じです。このことは、ソフトスラブよりハードスラブのほうが安全を意味するのではなく、スラブが硬いほうが、その強度を見積もることが難しく、また取り扱いが難しい、という理解が必要です。そして、スラブが硬いほうが、破断の伝播は遠くまで到達しますので、一端、雪崩が発生すれば、大きなものとなりやすいのです。※ウイーク・インターフェイス=隣り合った層の結合が弱いこと

 よって、山の斜面を良く眺め、地形と風の相互作用で、斜面にどのようなスラブが、どのような厚さで載っているのか、その絵を描けるようになることが大切です。また、平均的な厚さより薄い箇所は、潜在的な誘発点となりやすい場所です。これらは、ルート・ファインディングの際にも、滑走ラインを考察する際にも重要な意味を持ちます。

雪崩に遭ったら

<サバイバル>

 雪崩に遭った人自身が助かろうと努力することを<サバイバル>といいます。足元が動き、雪崩の発生に気づいた人は、その瞬間に、叫んでください。これは、たくさんの目で流されていく人を注視し、どこで見えなくなったのか、どの方向に流されたのかを見届けることで、初動捜索を速やかに進めるため、とても重要です。もし可能であれば、気づいた瞬間に、雪崩エネルギーの小さな、横方向へ逃げます。滑走前に、どこが安全地帯であるかを考えておくことも大事です。

流下する雪崩に巻き込まれ、流され始めたら、その表層に留まれるように努力します。流下する雪崩の密度よりも、人の密度のほうが大きいので、何もしないと沈みます。また、外れない滑走用具(スノーボードやテレマーク)は、抵抗となり、流下する雪崩の底に人を引き込む役目(アンカー)となります。スキーヤーであれば、ストックの手革も同様です。

 雪崩が停止する前に、可能であれば、エアポケットを作るようにします。また、もし、上がわかるのであれば、そちらの方向に片手を突き出すこと有効です。もし、少しでも手がでていれば、素早く掘り出してもらえるかも知れません。そして、埋まってしまったら、何もできることはありません。雪崩れるスラブの統計的な重さを思い出してください。真っ暗で、冷たく、まったく身動きでないところに、閉じこめられるのが埋没の現実です。雪の圧力で、たとえ頭部を下に埋まっていても、それに気づかないことも、ごく普通にあります。

<セルフレスキュー>

 雪崩に遭遇しなかった仲間が、埋没者を捜索・救助することを、<セルフレスキュー>といいます。この時に必要になるのが、ビーコン・プローブ・シャベルの3点セットです。これを「三種の神器」と呼ぶ場合もありますが、所持していても生還できないことがありますので、過大な呼称です。15分以内の捜索・救出が一つの目安になっており、経験則として、30分を超えて生存するには、ある程度の大きさのエアポケットが必要であると言われています。統計が示す雪崩による死亡原因は、窒息65%、岩や木など障害物への激突25%、低体温症やショック10%となっています。また、埋没深が2mを超えるような場合、生還の可能性は非常に低くなります。実際のセルフレスキューは、ビーコン捜索だけではなく、捜索する仲間との統制の取れた全体手順がとても大切になります。これは、フィールドでの練習が必要です。

では、もしビーコンを所持していない場合、どのようになるでしょうか。写真は、列を作り、プローブを使って、埋没者を捜索する訓練をしています。20名がプローブ・ラインを構成し、100m×100mの範囲をカバーするには、もっとも簡易な自分の前を一箇所刺す方法で、4時間ほど掛かります。3点を刺す丁寧な捜索方法では、同じ範囲をカバーするのに20時間掛かると言われています。これは1日で捜索活動が終わらないことを意味します。また、プローブ・ラインによる捜索は範囲内を完全にカバーできません。一歩前に進む際、埋没者を跨いでしまう可能性があるからです。

 吹雪時の雪崩など、雪崩発生後も、そのリスクが低下していない場合、そこに大人数の捜索隊を投入できないこともあります。しかし、家族や仲間は、一刻も早く助け出したいのは言うまでもありません。つまり、ビーコンは、自身の生還の可能性を高めるだけではなく、家族や友人、そして警察や消防、遭難対策協議会といった第三者に、不要なリスクを冒させないためにも、所持すべきです。ビーコンを所持していれば、同じ範囲を5分ほどで、およその埋没位置の特定が可能だからです。

雪崩リスクの考え方

雪崩の危険は、「雪崩地形」「不安定な積雪」「人と施設」という3つの要素が揃うことで生じます。この概念を図示したのが <アバランチ・ハザード・トライアングル>です。この三角形は、雪崩のリスクをマネジメントする上で、もっとも重要な考え方であり、入門講習会からプロ講習会まで、繰り返し提示されます。たとえば、積雪が不安定であっても、雪崩リスクのある地形を外していれば、雪崩の危険は生じませんし、山岳は雪崩について安全な場所を併せ持つものです。以下、トライアングルを形成する3つの要素について簡略的に記します。

<雪崩地形>

雪崩地形とは、雪崩リスクがある地形のことです。山を眺め、そこが雪崩地形であるか否かを認識することは、リスク・マネジメントの第一歩であり、最も大切なことです。ルート・ファインディング、休憩場所の選定、ピット作業などにおいて真っ先に考えます。

典型的な雪崩地形である<雪崩道>は、雪崩が起こる<発生区>、雪崩が流下する<走路>、そして雪崩が止まる<堆積区>を持ちます。発生区の見極めは、斜度、風の影響、斜面形状、植生、日射などいくつかの視点を使うことで認識することができます。特に、斜度は重要であり、面発生雪崩は斜度が35~45度の間に集中しています。それゆえ、積雪が不安定な傾向を示す時や、不安定性の評価が不得意な人は、斜度を30度以下にすることで、大きくリスク軽減できます。

地形は経験が浅い人でも認知しやすい面を持ちますが、その一方で、積雪の安定性が場所による多様性(強度等のばらつき)を持つことを適切に理解するには、フィールドでの経験と十分な知識が必要となります。つまり、雪崩地形の取り扱いは、間口が広く、奥が深いのです。

また、小さな雪崩でもそのリスクを大きくする<地形の罠>には、特に注意が必要です。たとえば、滑り始めはよくても、その沢が狭く深くなっているなら、小さな雪崩でも雪が中央に集まり、深く埋没する原因になります。斜面の先が崖である、開放斜面の下部の斜度が変わらず、いきなり樹林帯になっている(雪崩れると人はパチンコ玉のように木に激突)などです。

<不安定な積雪>

積雪の不安定性を考える上で、重要な概念が3つあります。一つは、グレーの濃さでイメージすること。二つ目は、情報・根拠を適切に統合し、組み合わせて考えること。三つ目は、考察は継続的に行うことです。

滑走する人にとって、ある斜面が雪崩れるのか否かは最大の関心事と言えますが、○か×、白か黒といった二者択一型の思考から離れ、どのようなグレーの濃さにあるのか? といった視点を持つことが大事です。JANのガイドラインで規定され、「雪の掲示板」にも利用されている5段階の安定性区分において、その両側(Very GoodとVery Poor)は、安定性(もしくは不安定性)を示す証拠がはっきりでますので、経験の浅い方でも認知がしやすい面を持ちます。たとえば、Very Poorであれば、自然発生の雪崩を多数観察するでしょうし、ワッフ音やシューティング・クラックなどの分かりやすい兆候があり、テストでは明快な結果が出ます。一方、Very Goodであれば、雪庇を落とすなど大きな刺激を加えても雪崩は起きませんし、スキーカットなどにも積雪は反応しません。ただし、こうした明快な判断ができる領域は狭く、中央にあるFairの範囲が広くなる傾向があります。また、一般的なイメージと異なり、雪崩事故は安定性がとても悪い時ではなく、中間域にある時に多く発生しています。

積雪の不安定性を考える際は、フィールドで集められた複数の証拠を使って、それを整合性ある形で統合させなくてはなりません。ジグソーパズルのように組み合わせる情報には下記の三種類があります。

クラス1データ: 積雪の不安定性を教えてくれる直接的な証拠で、最も重要度の高い情報となります。真新しい雪崩、スロープテスト、積雪内から聞こえる音(ワッフ音)、シューティング・クラックなどです。真新しい雪崩があった斜面と類似性ある場所(同じ標高・方角・地形形状など)では、積雪は限界に達していると考えられます。ワッフ音は、シール登行しているだけで、あなたの体重が積雪内の弱い雪を壊している、ということです。大きな斜面、斜度のある斜面を避ける明らかな兆候(自然のサイン)です。同様に、斜面に入ろうとしたら、足元からクラックが入った、という現象も、積雪が限界に達している明らかな証拠です。スキー場において管理のために爆発物を投げた結果や、雪庇を落とす、テスト斜面に勢いをつけて滑り込むスキーカット、といった、斜面に対して大きな刺激を加えることも、クラス1データに含まれます。

クラス2データ: 層構造、雪質、粒度、各種の安定性テストなど、積雪に関する情報です。このデータはやや曖昧さを持つようになります。「たぶん・・・」とか「もし・・・なら・・・」という表現で語られます。大事なことは、決して一つのテスト結果から斜面全体の安定性を判断しないことです。どのようなテストであれ、その局所における安定性についての情報を一つ、提供してくれるだけです。

クラス3データ: 降雪、風、気温などの気象要素です。これは、よりファジーな傾向を持つデータとなります。言い換えれば二面性が現れます。たとえば、降雨は数時間という短い時間スケールでは大きなマイナス要因ですが、一週間という長さになれば、安定要因として働きます。一つはっきり言えることは、強い形容詞が付く気象現象は、積雪に対して明らかなマイナス要素ということです。たとえば、短時間での大量の降雪、強風が長時間継続して吹く、数時間内での急激な温度上昇といったようなことです。

最後に「不安定性の考察を継続的に行う」とは、滑りたい斜面に着いてからピットを掘っても遅い、ということです。山に行く前に天気予報を聞き、大きな全体傾向を想像し、ゴンドラに乗っている間に周囲を見回し、風が吹いたか、真新しい雪崩がないかを観察し、さらに登っている途中に足元からの音に気を配り、適当な場所でピットを掘り、適当なテストを行い、徐々に積雪安定性の確信を高めていくことが重要です。また、同じ山域に継続的に入るのであれば、それを続けることで、安定性が変化してくトレンドを理解することもできるようになります。ある注目すべき弱層が、依然として不安定性を示しているのか、それとも安定化傾向にあるのか、見極めるのです。

<人>

自然のハザードレベル(危険度)が同じであったとしても、人の判断・選択肢でリスクは変動します。ある選択肢では、ある種のリスクが高くなり、逆にある種のリスクが低くなる、という二面性があるかもしれません。また、ある選択肢では、リスクを全体的に大きく下げることが可能かもしれません。グループのスキル、経験、各個人が引き受けられるリスクの大きさによって、どの選択肢を取るのかは変わってくるはずです。

積雪の不安定性評価であれ、ルート・ファインディングであれ、どのような判断においても、そこには必ずヒューマン・ファクター(人的要因)が忍び込みます。一般的に「経験」は適切な判断を導くために重要であると考えられており、実際その通りですが、また一方で、不適切な行動を繰り返すことで形成された体験的習慣は、時に大きな事故の要因となります。特に、雪崩地形とグループ・マネジメントが妥当な範囲で一致していない場合、事故は大きくなる傾向があります。

写真は疎林内にある雪崩走路を通過する時の写真ですが、リスクが上がる場所において、何かしらのリスク軽減策を取る習慣を付けることが大切です。「○○m、必ず間隔を開ける」といった杓子定規な考え方ではなく、その時の自然コンディションに合わせて、妥当と思われる範囲で何かしらのリスク軽減策を取るということです。それが良い行動習慣を作ることになりますし、たとえ事故があったとしても、それを小さくすることにつながります。

また、古くから言われているように「雪崩は、あなたがエキスパートであることを知らない」のです。しかし、人は自身の安定性判断のスキルについて過大評価する傾向があります。特に高い滑走技術や体力がある人に、その傾向があることが指摘されています。ですから常に、自分の感覚に対して健全な懐疑の視点を持ち、根拠に基づいてハザードを評価するようにしてください。

賢い意志決定のために

私たちが山岳で行動する際、どのようにしているでしょうか? 実行できる内容と質には程度の差こそあれ、どなたでも以下のような3つのステップを踏んでいるのではないかと思います。

自然コンディションを把握する → 行動の選択肢を考える → 意志決定をする

自然コンディションを把握し、それに見合った行動の選択肢を考えるには、フィールドでの<経験>も<知識>も必要です。これを整理したものが<意志決定のトライアングル>です。たとえ豊富な山岳経験があっても、本などを読み、知識を増やさない人は、起きている現象を的確に理解するのが難しくなります。また逆に、本をたくさん読んでいても、フィールド経験が少なければ、やはり自然をうまく捉えることはできません。経験と知識をバランス良く大きくしていくことがとても大事になります。

 また、自然コンディションの把握のためには、材料となる<情報>が必要です。これは多いに越したことがありません。ある個人が行動できる範囲は限られていますから、他者と適切な形で、ある精度を持った情報を交換できるようになれば、それは大きな力になります。しかし、他者と情報交換をするには、共通のモノサシが必要です。JANが使用している『気象・積雪・雪崩の観察と記録のガイドライン』は、こうした理念に沿ったもので、自然コンディションを理解するための基礎データを共有化しようという試みです。

つまり、意志決定のトライアングルとは、「自然コンディションに関わるさまざまな情報を、その人の経験と知識を使って適切に翻訳し、その過程で、妥当と思われる行動の選択肢とそれが内包するリスクを具体的に考え、自身に見合った賢い意志決定をする」となります。

全体の絵を失わないこと

雪崩を大きな木に例えると、雪粒の話は葉となります。その木を理解する上で、葉(雪粒)を理解することは、とても大切です。しかし一方で、葉から木全体のマネジメントを考えると、大きな失敗をするものです。雪崩という木の一番太い幹は<地形>です。経験の浅い人は地形の使い方を最初に覚えるべきですし、経験者ほど地形の重要性を認識しているものです。

 また、経験も木に例えることができます。体験という名の枝は、好き勝手にどんどん伸びるものです。ある枝は適切な方向に伸び、あるものは少し偏った方向へと伸びます。人は自身の体験や感覚を正当化したいものですし、特殊な時に起こった特別な出来事は大きな印象を残すものです。しかし、強い印象を残したものが、必ずしも重要な意味を持たない可能性を考える必要があります。よって、経験がある方は、自身が山で体験したことが、雪崩という全体の絵の中で、果たしてどの程度重要な意味を持っているのか、それを再考するプロセスが必要です。言い換えれば、蓋然性が高いと考えられている知見が適切にまとまっている本をハサミとして、不適切な方向に伸びている枝を剪定するのです。『雪崩リスク・マネジメント』や『雪崩ハンドブック』が参考となるでしょうし、『雪崩通信』も最新の知見を提供するために作られています。また、豊富な現場経験を持ちつつ、かつまたそれに見合った適切な専門教育を継続的に受けている、より経験ある人と一緒に活動することも重要です。心に留めるべきは、「雪崩についてカリスマは存在せず、誰もが生涯学習の途中」ということです。

Think SNOW

「Think SNOW」とは、自然に対する理解を深め、行動をマネジメントすることで、雪崩に遭うリスクを下げることを目的としたアウェアネス活動の標語です。フィールドで<4つの問い>を実践して頂くことで、ある判断プロセスにおいて、各人が持っている知識を生かすためのヒントになり、また同時に、ヒューマン・ファクターをコントロールする良い行動様式を習慣化させることを目的としています。これらは、行動中に、常に、繰り返すことが大切です。そしてこの4つの問い自体が、思考プロセスの中で無意識に行われるようになったとき、雪崩リスクを上手にマネジメントできるようになっているはずです。

質問-1 あなたは、今、どこにいますか?

雪崩地形=雪崩リスクのある場所、を認識し、適切な行動を取ることが、リスク・マネジメントの第一歩です。休憩やメンバーが集まって相談する時などは、かならずそこが安全度の高い場所であるのか、考えることが必要です。地形判断のミスによる事故はベテランでもあります。適切ではない行動様式が習慣化していること、もしくはヒューマン・ファクターなどがその主な原因です。

質問-2 大丈夫と判断した理由は何ですか?

積雪安定性の評価に<感>は必要ありません。なにごとも憶測せず、事実と証拠に基づいて考えます。真新しい雪崩やスキーカット、ワッフ音、シューティング・クラックといった積雪が不安定であることを直接示す証拠(クラス1データ)を見逃さないようにしてください。そして、一つのテストに信を置きすぎないように。安定性を示唆する結果の場合、それは積雪の空間的多様性によるものかも知れません。安定している証拠を探すのではなく、不安定性を示す証拠を考えます。

質問-3 もし雪崩れたら何が起こりますか?

積雪安定性の評価は、穴だらけになったジグソーパズルを眺めつつ、書かれている絵を想像しているようなものです。つまり、私たちは容易に判断を誤ることを認識しておく必要があります。また、小規模な雪崩でもリスクを引き上げる<地形の罠>に対する注意も必要です。

質問-4 他に選択肢はありますか?

具体的なリスクの姿を考えて、それが自身に見合ったものなのか、今一度、考えてみてください。正しい・間違いではなく、リスクの種類や大きさなどを具体的に考えることです。自然コンディションが同じでも、選択肢によってリスクは大きく変動します。そして常に複数の選択肢を持つ行動がリスク・マネジメントでは大切です。